...the void of the Universe, the mystery of eternity.2009年08月18日 07時50分

米RCA Red Seal LSC-7066 & 英RCA Red seal LSB40034
米RCA Red Seal LSC-7066(2) No Dog Label, DYNAGROOVE 2LPs (C)1970
英RCA Red Seal LSB-4003/4 No Dog Label 2LPs (C)1970
日本ビクター音楽産業/RCA Red Seal SRA-2713/4 2LPs

Mahler Symphony no.2 "Resurrection"
Eugene Ormandy/The Philadelphia Orchestra
Birgit Finnilä(Contralto)
http://en.wikipedia.org/wiki/Birgit_Finnil%C3%A4
Evelyn Mandac(s)
Singing City Chorus directed by Elaine Brown

Also Available on CD 日BMG Funhouse BVCC-38283/4 (C)2003

超名演なのに録音が劣悪・・・という非常に悩ましい名盤、オーマンディ・フィラデルフィアの「復活」です。ホント、アカデミーの実況録音(たぶんあると思うのですが、確認したわけではありません)、誰か世に出してくれませんか?(クリーヴランドとのライブ録音がCD-Rで出ているそうですが、私は聴いていません)

日本でも1970年にLP発売されていますが、余程売れなかったのでしょう・・・中古屋さんでもオークションでも、私はその国内盤を一度も見たことがありません。マーラーがブームになったのは1970年代後半だそうですから、早すぎた「意欲的な録音」だったのでしょう。

劣悪な録音状況にも関わらず、BMGファンハウスがこの録音をCD化するという英断を下すまで、熱心なオーマンディ・ファン以外、このLP、そしてオーマンディの「復活」ステレオ録音の存在を知らなかったのではないかと・・・そういう忘れ去られた貴重な録音でもあります。

私も、Fantastic Philadelphians の Ichikawa さんが Weekend Reviewで取り上げなければその存在すら知りませんでした・・・。今はCDで手軽に聴けますが、10年程前はLPを探すしかありませんでしたねえ・・・結局、ebayのオークションで、米盤2組と英盤1組を入手しましたが・・・

Fantastic Philadelphians
http://www5a.biglobe.ne.jp/~philorch/

最初入手したのはジャケットが酷い状態の米盤でした。LPもスリーヴがなく裸の状態、しかも埃だらけ・傷だらけの盤でしたが、それでも、Good Conditon! と堂々とのたまうアメリカ人の大らかさに呆れるやら苦笑するやら・・・でも、殆ど針通ししていないようで、クリーニングするとかなり良い状態でした。目に見えるキズも音には殆ど現れませんし・・・。

今回新たにレイカ・バランスウォッシャーでクリーニングしたら、さらにノイズが穏やかになりました。ホント、このクリーナーは効果があるなあ・・・

その後、英盤を入手しました。こちらはジャケットのオレンジ色の部分(写真のオレンジ色の四角の部分、ここはタイトルですが)

"...This is a magnificent performance of the work; and the recording is a spacious, full-blooded one..." - Deryck Cooke, The Gramophone

とあります。演奏はともかく録音については・・・"full-blooded" は レベルオーバーによる音割れを皮肉ってるのか知らん?まあ、Cooke Version の mahler 10番を録音してくれたマエストロに好意的だったのかもしれません。クレンペラーに「おまえなんぞ知らん!」と言われ、バーンスタインにもまともに相手にされなかったクック氏ですから・・・

この英盤はCDが出る前、欲しいという人に譲ってしまいました。BMGジャパンから発売が噂されていた「オーマンディの芸術第3弾」の情報がまだはっきりとせず、「復活」もCD化されるかどうかも分からなかった時期なので、入手にかかった費用程度でこのLPをお譲りしたのですが、その後この「第3弾」のラインナップが明らかになり「復活」もCD化されると聞いたときは、ちょっと申し訳なかったですなあ・・・ま、そんなこともありましたワ。

それから暫くして、状態の良い米盤を入手しました。ということで、今手元には米盤2組が残ってます。米盤・英盤の違いはジャケットデザインと面割でしょう。米盤はオートチェンジャー仕様なので、1枚目がSide1,Side4、2枚目がSide2,Side3 という構成になってます。英盤は普通の面割です。

米盤・英盤の音について、音は米盤の方が若干良いと感じました。盤面を良く見ると、米盤の方が内周までカッティングされており、カッティングレベルを英盤より高く取っているからと思われますが、その分内周部は歪も増えるのでトータルではどうでしょうかねえ・・・イギリス盤は高音が少々丸くなっているようにも感じましたが・・・

盤そのもについて、英盤の方が米盤よりしっかりしてました。また、2組の米盤も、最初に入手したのはそれなりにしっかりしているのですが、後で入手した盤はペナペナ盤でした。プレス時期でもかなり違うようですなあ・・・

さて、肝心の演奏について・・・

このコンビの演奏・録音でも筆頭に上げるべきものでしょう。最初のただならぬ緊迫感を持った弦セクションの音であっという間に引き込まれます。

これ程の悠然たるスケールの大きさ・そしてフォルティッシモの強烈さは、このコンビの他の録音も及ばないレベルでしょう。特に、4楽章・5楽章のフォルティッシモは凄まじく、 フィラデルフィア の ブラス・セクション をこれ程突出させた演奏は他にはあまり無いですなあ・・・

とはいえ、やはりホルンの音などはかなり押さえ込んでブレンドさせたりしてます。やはり「弦楽が主体」の19世紀の伝統が顔を出すのでしょう・・・

それにしても、G. Jhonson のトランペットはホント、特筆に値します。フォルティッシモの部分も勿論ですが、3楽章の桃源郷とも思える甘いメロディーを奏でる音色はたとえようもありません。これだけふわ~と音を漂わせるように吹けるソリストが他にいるかなあ・・・終楽章の「光明」の合唱はその高揚感に目頭が熱くなりますワ・・・

5楽章の最後、ここはトランペットは音を出さないのですが、オーマンディはかまわずトランペットを強奏させており、これがまた凄い迫力を生み出しています。まあ、是非はさておき・・・

問題の録音について・・・

強音部の音の歪みについては、CDの解説に詳しく説明されています。CDが出る前は、このフォルテの音の歪はカッティングかプレスの出来が悪かったのだろう・・・オリジナル・セッション・テープは大丈夫では・・・と期待してましたが、解説によると、これは収録時に発生したものらしく、CD化でも歪は残ったままです・・・sigh・・・

CD化に際して、オリジナルの4chマスターテープまで遡ってますから、もうこれはどうしようもないのでしょう・・・

1970年3月18日に1楽章・2楽章・4楽章、翌日3楽章と5楽章が収録されてますが、特に19日のセッションの音の歪が酷い状況になってます。

何故、このようなプロにあるまじき初歩的なミス(レベル・オーバーによる飽和歪なんて・・・)をRCA Red Seal のスタッフが犯したのかは謎ですが、一つ考えられるのは、弱音を明確に収録するため・・・ということでしょうか・・・

マーラーのこの曲は大編成にもかかわらず、室内楽的な部分が大半を占めているので、その弱音をノイズ(テープ・ヒス・ノイズ等)に埋もれさせないために録音レベルを上げた・・・と。確かに、CD化された音を聴くと、当時の録音としては弱音部が鮮明にキャッチされていることが分かります。でも、それだけでは、これだけ盛大なレベルオーバー歪の理由としては納得しかねますなあ・・・

それとも、音をフォルテでわざと歪ませて「異様な」迫力を出そうとしたのでしょうか・・・それはちょっと考えにくいですなあ・・・

アメリカの家庭では、広い部屋でフロア型のスピーカーを鳴らす・・・というのが当時の一般的なオーディオの形だったそうですから、であれば、音が歪んでもそう気にすることはない・・・という判断が合ったかも知れません。

それにしても、これだけの大曲をたった二日間で収録してしまうとは・・・恐らく、定期演奏会等で取り上げた後のセッション(だから、アカデミーのライブ録音を期待してしまうのですが・・・)で時間を節約したのでしょうが、セッション時に満足にプレイバックする時間がなかったとか・・・

いや、でもマイクセッティングや音決めでレベル設定をするはずだから・・・

・・・もう40年近く前のセッションの出来事ですし、あれこれ邪推しても仕方がないのですが・・・演奏の出来が素晴らしいだけに・・・痛恨の極みというヤツですなあ・・・

真相は、the mystery of eternity ・・・か・・・