Stokowski & Philadelphia, Dvořák Symphony No.5 "From the New World" ― 2013年01月04日 19時40分
Leopold Stokowski /The Philadelphia Orchestra
recorded 5 & 8 October, 1927
日本ビクター蓄音器株式会社/Victor Talking Machine Company/Victor JAS953
両面12インチ盤 5枚組
ドヴォルザークの新世界交響曲、当時は5番だったんですなあ・・・
1927年収録なので、Victor Talking Machine Company が 1929年に RCAに身売りする前の録音・・・ということになりますな。
Matrix
1楽章:84525,84526、2楽章:84541,84542,84543
3楽章:84544,84545、4楽章:84546,84547,84548
Wikipediaによると、Victor Talking Machine Company は1925年に Western Electric の電気吹き込みシステムを導入、それを "Orthophonic"と銘打ち、レコードラベルも上記写真の「スクロール」と呼ばれるデザインに一新、上部のVEは電気吹き込みを示しているそうな。
また、Wikipediaによると
Victor quickly recorded the Philadelphia Orchestra conducted by Stokowski in a series of electrical recordings, initially at its Camden, New Jersey studios and then in Philadelphia's Academy of Music. Among Stokowski's first electrical recordings were performances of Danse Macabre by Camille Saint-Saëns and Marche Slave by Peter Tchaikovsky.
とあり、恐らくこの1927年録音の「新世界」はAcademy of Musicで収録されたと思われる。音楽アカデミーのデッドな音響を何となく感じるような・・・
演奏はそう奇をてらったものでは無いが、各所に見られるテンポの緩急、3楽章のバス・ドラムの録音レベルの大きさ(「音聴箱」 GP-17 が針飛びを起こしてしまった)、4楽章の最初の音の極端なクレッシェンドなど、当時の技術の制約の中でハイファイを追求した苦心の跡が観られて微笑ましい。
これが今年の初クラシック・・・ですかな?では。
Edison Diamond Disc を聴く その5 ― 2013年01月03日 21時30分
さて、新年早々、昔のレコードを聴くのもオツなもの・・・ということで、Edison Diamond Disc を聴く その4 の続きです。
ウラはカタログ。
結構精巧なエッチングでビックリする。技術的には高いレベルだったと思う。3点の窪みは不明。製造時に出来たのか、再生に必要で窪ませたのか・・・
裏側
レコードの発明者(ま、異論は色々あるでしょうが・・・)のエジソン社のレコードを実際に聴く機会って意外に無いので、今回は色々楽しめました・・・では、お終い。
Edison Diamond Disc を聴く その4 ― 2013年01月03日 19時50分
さて、新年早々、昔のレコードを聴くのもオツなもの・・・ということで、Edison Diamond Disc を聴く その3 の続きです。
とりあえず、エジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)を日本コロムビア「音聴箱」 GP-17で再生することは出来ました。
本当は80回転に合わせるのが正しいのだが、面倒なので78回転のままで再生してます。当時、本当に80回転にきちっと合わせていたのか疑わしいし、78回転再生でもピッチに違和感が無いのでこのままでいいかな・・・と。
ただ、音に元気が無いし低音が出ない・・・まあ、当たり前の話ですが、「音聴箱」 GP-17はステレオ・ピックアップで音を拾い、ステレオLP・モノラルLP(横振動)・横振動78回転盤(SP)を再生した時にきちんと音が出るように設計・配線されているので、縦振動のダイヤモンド・ディスク を再生した場合、左右の音は逆相で出てくる・・・となると、特に低音は左右で逆相の音が打ち消し合って相殺するのでまるで音が出なくなるのも道理・・・
コレを解決するには、左右どちらかの位相を反転させれば良い。原理は簡単。でも何処で配線をひっくり返すか・・・昔のアンプは片方の位相をひっくり返すスイッチがあったと思うが・・・
AC100Vが来ており感電する危険性があるので、コンセントを引っこ抜いてから裏蓋を開けて中を覗く・・・奥のフロント・パネルにフルレンジのスピーカーが左右に1個ずつマウントされている。写真中央基盤の2個の電解キャパシターの手前にコネクタを介したスピーカー出力配線(赤・黒)がある。
ここでひっくり返すのが一番手っ取り早いし元に戻すのも楽だ・・・ということで、ここのコネクタ(左側スピーカー側の青いコネクタ)をひっくり返すことにした。ちなみに、青いコネクタの右の半固定抵抗はスピード調整用のもの。
GP-17を購入した直後の、レコード再生のピッチの高さ(回転数がかなり早めに設定されていた)に閉口してしまい調整したことがあった。駆動モーターが商用交流周波数で回転数が決まる交流の誘導モーターやら同期モーターではどうしようもないが、どうやら直流モーターを使っているようで、この半固定抵抗で簡単に調整出来て助かったのだ。
33回転のVRでまず33回転を合わせて、その後に45回転と78回転をそれぞれのVRで合わせる。45と78は33のVRに連動しており、温度変化や回路素子の経年変化で回転数がドリフトする場合は33回転を調整するだけで45回転と78回転も調整が済むので合理的な設計と言えないこともない。
閑話休題
ここで左側のスピーカーの音を反転させるにはコネクタをひっくり返して挿せば良いのだが、当然のことながらフェール・セーフとしてコネクタ逆挿しが出来ない形状になっている。設計の基本ですが、今回はあえてそのルール違反をするのだ。
左側スピーカー配線のコネクタ逆挿しを可能とするため、メス側のコネクタを改造(かなり乱暴)しているところ。(よい子は真似をしないように)
さて、これで再生してみると、位相反転の違和感が消え、低音が出て力強い音が鳴り始めた。これでダイヤモンド・ディスクも通常の78回転横振動ディスクも両方楽しめる。
その5に(たぶん)続く
Edison Diamond Disc を聴く その3 ― 2013年01月03日 19時00分
さて、新年早々、昔のレコードを聴くのもオツなもの・・・ということで、Edison Diamond Disc を聴く その2 の続きです。
<コロムビア「音聴箱」 GP-17 で ダイヤモンド・ディスク を再生する>
とりあえず、エジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)を再生可能な状態までクリーニングしたので、お次は再生です。
使用するプレーヤーは日本コロムビア「音聴箱」 GP-17です。そういえばこの機種、2005年10月に店頭展示品を1万数千円程度で購入したんだっけ。プレーヤーについていた針+交換用サファイヤ針をオマケに付けてもらったっけ。
こういう機種の何が良いかというと、特別なオプション無しに手軽に78回転盤(SP盤)が聴ける・・・ということです。ただ、付属のサファイア丸針 DENON SJN-75(0.5ミルと思われる)なりアーピスのダイヤモンド交換針(0.5ミルダイヤモンド丸針)でも78回転盤を聴けますが、針の寿命は短くなりノイズも多めに出るので、よりきちんとした音を聴きたければSP用ダイヤモンド針(DENON DSN-75SP たぶん2.5ミル程度、市況価格2千円~3千円程度)を用意すべきですな。
<2012年1月6日追記修正>
ちなみに、milとは千分の1インチ(Angular mil(ミル(角度))とは異なる)のことで、レコード針(Stylus:スタイラス)の場合、針先端の形状(丸針:Spherical,Conical,は球面、楕円針:Elliptical は楕円)に対する半径を示す。
例えばこんな感じ
Shure Model M78Sの丸針。2.5milですな。
Polished, natural diamond
Spherical 64 μ (0.0025 in.) radius
Shure m97xe の楕円針。0.2×0.7milですな。
Polished, natural diamond
Elliptical 5 x 18 m (0.0002 x 0.0007 in.) radii
さらに特殊なシバタ(4ch)針等については下記ご参考(Wikipedia Phonograph Styil より引用)
Other advanced stylus shapes appeared following the same goal of increasing contact surface, improving on the Shibata. Chronologically: "Hughes" Shibata variant (1975), "Ogura" (1978), Van den Hul (1982). These styli are marketed as "Hyperelliptical" (Shure), "Alliptic", "Fine Line" (Ortofon), "Line contact" (Audio Technica), "Polyhedron", "LAC", and "Stereohedron" (Stanton).
A keel-shaped diamond stylus appeared as a byproduct of the invention of the CED Videodisc. This, together with laser-diamond-cutting technologies, made possible "ridge" shaped styli such as the Namiki (1985) design, and Fritz Gyger (1989) design. These styli are marketed as "MicroLine" (Audio technica), "Micro-Ridge" (Shure), "Replicant" (Ortofon).
ステレオLPが出た当初、モノラルLP用針は1ミル、ステレオは0.7ミルが推奨されていたようだが、多くのステレオカートリッジの丸針は0.5ミルが採用されているようだ。
針先形状については、日本精機宝石工業㈱レコード針が解りやすいのでご参考にどうぞ。
GP-17のカートリッジ(ピックアップと言うべきか?アームから取り外すのは困難なので実質交換不可能)はハイファイ・オーディオ用の電磁発電方式(MM,MC,IM,VM等)では無く、圧電素子(セラミック)を使ったタイプで、昔の「電蓄」の趣がありますが、出力電圧が高く(MMの数mVに対して数V程度)、出力は原理的に周波数に関わらず振幅に比例(流石に周波数フラットとはいきませんが)するので、電磁発電方式のような極端なイコライズやらフォノ・アンプの如くのハイ・ゲイン・アンプは要らないので回路が簡素に済むという利点があり、それが音のイキの良い理由かもしれません。
操作パネルも簡単そのものの日本語表示。左のつまみで33・45・78回転を選択し、右のボリュームが電源スイッチも兼ねる経済設計。
前面の7.7cmフルレンジ2発(左右でステレオ)が付いたキャビネットはスピーカー・ボックスと電源・アンプ(3.5W+3.5W)・プレーヤー駆動部(ベルトドライブ)の収納ボックスを兼ねている。このボックスの箱鳴りと容積を旨く生かして結構ボリュームのある低音を再生することが出来る。これで聴く78回転盤の音はなかなかのもの。アコースティックの蓄音機と異なり、夜でも静かに聴ける。
ハウリング防止の為、プレーヤー部分はキャビネットとはスプリングでアイソレートされている。プレーヤーはマニュアルでリフター付き。ピックアップをレコードの導入溝まで移動するとターンテーブルが回転する経済設計。アームレストまで戻せば回転は止まる。
ピックアップの指掛けが使いにくく、針を落とすのは大丈夫だが演奏終了後に拾い上げるのはちと大変(指が引っかからない)なので、(おもちゃみたいな)リフターでアームを上げてからアーム・レストへ戻す。トーンアームもおもちゃみたいなパイプアームだが、これでもちゃんと機能を果たしているのだから大したものだ。
なお、スピンドルはプレーヤーベース(よく解らないけが)に固定されており回らない。固定され回らないスピンドルに穴の空いたターンテーブルスポットはめ込みベルト駆動している・・・そういう設計のプレーヤーなのだ。だから、残念ながらソノシートは大抵再生出来ない。ターンテーブルが回ってもスピンドルの穴でがっちり固定されてスリップして回転しないという事態に(T_T)・・・
閑話休題
それでは、再生について。ディスクが分厚い(5mm)ので、
「アームの腹にディスクが当たる」とか
「アームの頭が上がりすぎる」とか
「盤面とピックアップの角度はどうか」など、
色々心配しましたが、やってみればまあまあ上手くいきました。ちょっとアームの頭が上がり気味ですが、まあ、許容範囲でしょうか。
ピックアップをリフトアップしたところ
Edison Diamond Discの適用出来るダイヤモンド針について、下記サイトによると・・・
・Tim Gracyk's Phonographs, Singers, and Old Records
-Edison Diamond Discs: 1912 - 1929
To play Diamond Discs on vintage equipment (they play at 80 rpm), one must use a diamond stylus designed by Edison engineers. A diamond stylus lasts a long time but not forever, so today's Edison machine owner should inspect the stylus to see if it needs replacing. The radius for Edison styli is 3.5 mils or .0035 inches (according to files at the Edison National Historic Site), though some collectors claim that 3.3 mils also gets good results.
標準的な78回転の針(鉄針)の先端曲面半径は3ミル程度だそうな。現在発売されているSP用カートリッジ装備されているダイヤモンド針の多くが2.5ミルを採用しており、恐らくこの音聴箱用SP用ダイヤモンド針(DENON DSN-75SP)も2.5ミル程度で製作されているだろうから、まあ少なくとも音溝の底をガリガリすることは無いだろう・・・というところ。
<2012年1月6日追記修正>
ちなみに、現在発売されているSP用カートリッジに装備されているダイヤモンド針の多くが2.5ミルを採用している理由は、下記の通りだそうな。
・鉄針(3ミル)でトレースされ荒れた部分を避ける。
基本的に78回転盤で「新品」はあり得ないので。
・LP直前に出来たVG盤の規格が2.5ミルであり
その互換性を考慮。
<出典>SPレコード誌 No.3 1972年10月出版
最新の技術で最良の演奏を
~SPを”ステレオ”で聴く方法~ 朝倉 収(対談)
但し、これは78回転盤の溝の状況(新品か否か、また生産時期やメーカーによっても異なる)によりケース・バイ・ケースのようだ。ちなみに、78回転盤の溝底の半径は1ミルだそうなので、これをLP用の針(0.5ミル~0.7ミル)でガリガリ底を削ると盤を著しく痛めるのだそうだ。つまり、3ミル程度の鉄針での再生を想定して作られているので、硬い細い針でかけると宜しくないのだそうだ。(前述朝倉氏の対談記事より)
最近は2.5ミル以外の針先のカートリッジも発売されている。
YTVS(ヨコハマテレビサービス) Audio
ナガオカ/MM型SP用カートリッジ
MP-11HJSP/MP-11JSP
カートリッジの発電機構・出力はステレオだが、交換針が3種類(標準3ミル,3.5ミル,4ミル)用意されているのは興味深い。また、針圧テストデータについての記述も参考になる。純粋なモノラルカートリッジでは無いものの、出荷時に縦振動成分をLRでショート(「R+とL+を短絡」「R-とL-を短絡」)して擬似モノラル出力にするサービスもあるそうなので一考する価値はあるかも。
ちなみに、このエジソン・ディスクのような縦振動ディスクの場合は、「R+とL-を短絡」「R-とL+を短絡」した上で方チャンネル(LRどちらでも良いが)の出力をひっくり返す必要がある。
このように出力コイルを並列接続すると、フォノアンプから見たカートリッジの出力インピーダンスは半分になるが、カートリッジから見たフォノアンプの入力インピーダンスも半分になるから・・・いいのかなあ?
あと、音のエジソンというメーカーが 3ミル~4ミルの丸針を装着したSP用カートリッジを販売している。こちらも面白いが、当然のことながら発電機構が横振動モノラルなので、縦振動モノラルは再生出来ない。
とりあえず音は出たが、もう一つ解決すべき課題がある・・・その4へ(たぶん)続く
Edison Diamond Disc を聴く その2 ― 2013年01月03日 17時00分
さて、新年早々、昔のレコードを聴くのもオツなもの・・・ということで、Edison Diamond Disc を聴く その1 の続きです。
<エジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)のお掃除>
昨年夏(8月か9月頃?)にふと立ち寄った大須のハイファイ堂レコード店で見かけて入手したエジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)、なんといっても100年程前のディスクであり、しかも長い間倉庫で埃をかぶっていたシロモノなので、まずはクリーニングを・・・
・・・と、スリーブの注意事項に目を通すと・・・
If records become soiled and need cleaning. wipe with cloth dampened with alcohl. Wipe with small piece of vervet. DON'T USE WATER.
ナント、しっかりと「水を使うな」と注意書きが・・・実はこの注意書き、全部のディスクをクリーニングしてから気が付いたのでした(← お粗末)スリーヴもぼろぼろで埃だらけ、ディスクも塵・カビ・一部剥離や欠けたものも有り、クリーニングしなければとてもターンテーブルに乗せられないの で、結構な手間をかけてクリーニングしました。付属のスリーブはぼろぼろで再利用は不可能なので、ディスクをクリーニングして予備の紙スリーブに入れた 後、別の10インチ用ポリ袋に入れてディスクと一緒に保管することにしました。
さて、水を使うと何故宜しくないか・・・色々ネットで調べたところ、下記のサイトに明確な答があった。ちょっと長いけど引用します・・・
・Edison Phonology
-Common Problems With Edison Diamond Disc Records- Photos and Text by Phil O'Keefe
Edison Diamond Discs were made by laminating an early plastic called "Condensite varnish" over a blank (core) comprised of materials like woodflour, chalk, china clay, phenol resin, cotton flock, lamp black, gas black, and denatured alcohol. The materials used in the record tend to absorb moisture. If subjected to enough moisture, the record can warp, delaminate, and crack, especially early Diamond Discs which were made with a Condensite layer over a celluloid layer pressed on to the core. This is why Diamond Discs should never be stored in a damp environment or cleaned with water. They should ONLY be cleaned with isopropyl alcohol applied to a soft cloth!
When an Edison Diamond Disc is stored in a damp environment over a prolonged period of time, it can develop the damage...
ダイヤモンド・ディスクはコア材(a blank (core) comprised of materials like woodflour, chalk, china clay, phenol resin, cotton flock, lamp black, gas black, and denatured alcohol.)の両面をワニスのような初期のプラスチック材(an early plastic called "Condensite varnish")でサンドイッチした積層構造をしており、水分・湿気に極度に弱いようだ。長期間湿気のあるところに置いておくと、音溝のある "Condensite varnish"面がコア材から剥離したり割れたりするそうな・・・
↓ここもご参考サイト
・jukebox - POPULAR VICTOR, EDISON, COLUMBIA RECORDINGS FROM 1900 - 1930 Edison Diamond Disc Technology
では、損傷の程度を手持ちのディスクから・・・
欠けて剥離したディスク。これは音溝はまだ大丈夫なので演奏可能。
「水を使うな」という注意書きは気が付かなかったけど、少なくとも4~50年以上放置されていたと思われる状態で汚れも酷いので、固く絞った雑巾でかるく表面を拭いてから、レイカ バランスウォッシャー(78回転盤用)とクリーニング・クロス(ビスコ78)でしっかりクリーニングしました。
このレイカ バランスウォッシャーを使うと、ディスクはある程度光沢を取り戻し、水よりも乾燥が早いので結構便利。LP用・SP用ともこれまで使っていて結果に不満は無いので、SP用のレイカをこのダイヤモンド・ディスクにも使ってみたワケ。クリーニングしてからほぼ半年経った現在もディスクの損傷が酷くなった兆候は無さそうなので、まあ大丈夫・・・かな?これから時間が経つとまたどうなるか解らないが・・・
Edison Diamond Disc を聴く その1 ― 2013年01月03日 11時15分
さて、新年早々、昔のレコードを聴くのもオツなもの・・・ということで・・・
<大須のハイファイ堂レコード店にて>
昨年夏(8月か9月頃だったかな?)、ふと立ち寄った大須のハイファイ堂レコード店で、ガラスケースに鎮座しているエジソンの蝋管と、店頭の木箱にこれまた見慣れない分厚いディスクが置かれていた・・・
<エジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)との遭遇>
興味深く見てみると、どうやらこれはエジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)だと分かった。2011年3月11日の大震災で吹っ飛んでスクラップと化した東京電力福島第一原子力発電所のGE MarkⅠのGE社も起源の一つはエジソン社である。電流戦争(※)でウェスティング・ハウス(メルトスルーを逃れたスリーマイル原発事故を起こした加圧水型原子炉の主要メーカーでもあるが)と争い、鬼才ニコラ・テスラが発明した交流送電システムによる電気椅子を刑務所にセールスした男でもある発明王エジソンのダイヤモンド・ディスクを拝めるとは思わなかった・・・
(※)現在は交流送電システムが主流ではあるが、直流送電システムは原理的に「送電ロスが少ない」「低周波電磁界の発生の抑制に有効」「交流よりも系統連系に有利」であり、将来的にはこちらに主役交代になるかもしれない。これも半導体技術とインバーター・コンバーター、そしてそれを制御するディジタル制御技術の賜ではあるが・・・ただ、それが産業的に浸透するにはまだまだ時間がかかるだろう。電流戦争でウェスティング・ハウスが勝ちエジソン社は破れたが、時代の進歩と共にその評価もまたひっくり返るかもしれないというのは面白いことである。
これは是非とも再生してやろう・・・ということで状態の良い物を数枚選んで購入した。それにしても長期間倉庫に放置されていたのだろうか・・・スリーブはぼろぼろで埃だらけだし、カビが生えているディスクもある・・・これはクリーニングのしがいがあるというものだ。
さて、エジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)とはなんぞや・・・というところからおさらいしてみようかな・・・最近はネットで簡単に情報収集出来るので有り難い事である。
<レコード事始めまで遡ることに・・・蝋管と円盤>
最初のレコードはエジソンが1877年に発明した円筒の蝋管(Phonograph cylinder)だが、これは後に、1887年にE.ベルリナーの開発した円盤レコード(Gramophone record)に取って代わられる。円盤は盤の両面に音溝をプレス出来るし、大量生産に向いていることが市場制覇の決め手となった・・・というのはよく知られた歴史である。
Phonograph cylinderは記録面に対して垂直(縦振動、Vertical - Cut, Hill and Dale - cut, up and down - cut)に溝(groove)を刻む。E.ベルリナーの開発したGramophoneは記録面に対して水平(横振動、Lateral - cut)に溝(groove)を刻む。原理的には、Vertical - Cutの方が音が良いが、当時のカッティング技術やプレス技術及び生産歩留まり、そしてトータルコスト(ディスクと再生機の価格)を含めて総合的に Lateral - cut の方に軍配が上がった・・・ということだろう。
78回転盤の後に登場したLP(モノラル)もこの歴史の流れに従い、横振動で音溝が刻まれている。1950年代後半の45/45方式のステレオLPの登場により左右の逆相成分(差信号)が縦振動成分として復活?した。左右の同相成分(和信号)は従来通り横振動で刻まれているので互換性も確保されている。
The combined stylus motion can be represented in terms of the vector sum and difference of the two stereo channels. Vertical stylus motion then carries the L-R difference signal and horizontal stylus motion carries the L+R summed signal, the latter representing the monophonic component of the signal in exactly the same manner as a purely monophonic record.(Wikipedia Gramophone Record より引用。こちらには原理図面もあるのでより解りやすい。)
ちなみに、LPレコードのステレオ方式戦争で採用が見送られたV/L方式のDECCAカートリッジ(現在Presence Audio社にて生産継続)は、縦振動成分(Vertical Motion)と横振動成分(Lateral Motion)を独特の方法でピックアップする機構であり、それぞれのコイル(Vertical coil と Lateral coil)が拾い上げる信号(縦振動(L-R)と横振動(L+R))を結線によるベクトル再合成でLとRの信号に分離している。
The Decca phono cartridges were a unique design, with fixed magnets and coils. The stylus shaft was composed of the diamond tip, a short piece of soft iron, and an L-shaped cantilever made of non-magnetic steel. Since the iron was placed very close to the tip (within 1 mm), the motions of the tip could be tracked very accurately. Decca engineers called this "positive scanning". Vertical and lateral compliance was controlled by the shape and thickness of the cantilever. Decca cartridges had a reputation for being very musical; however early versions required more tracking force than competitive designs - making record wear a concern.(Wikipedia Magnetic cartridge より引用)
以下、DECCAカートリッジに関するご参考
・THE DECCA Mk.VI (GOLD) CARTRIDGE(Adventures in Hifi Audio)
・完実電気株式会社:Presence Audio「About Presence Audio」
横振動のみをピックアップするモノラルLP・78回転盤用カートリッジは現在も発売されているが、エジソン・ダイヤモンド・ディスクや仏パテ(Pathé)等の縦振動ディスク用の縦振動成分のみを拾い上げるカートリッジというのは聞いたことが無い。ステレオ・カートリッジのステレオ出力を左右逆相にすれば、とりあえずまあまあの再生は可能だがベストではない。DECCAカートリッジなら、縦振動方向のみのピックアップも可能だから、縦振動ディスク用に面白い使い方が出来るかもしれないが・・・
<エジソン社のダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)とは?>
そんでもって、エジソン社も1912年にダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)という円盤レコードを出すが、これはベルリナーのGramophoneとはかなり異なる。ベルリナーのGramophoneは横振動(Lateral - cut)だが、このダイヤモンド・ディスクはPhonograph cylinderと同じく縦振動(Vertical - Cut)のディスクである。他に縦振動ディスクとなると、仏パテ(Pathé)のディスクくらいだろうか・・・また、通常目にする78回転盤が精々1mm~2mm弱の厚みなのに対して、このダイヤモンド・ディスクは5mmもの厚みの分厚いディスクなのだ。
確証はないが、どうやらそれまで培ってきたシリンダー・レコード(Blue Amberol Cylinder)の量産技術をディスク・レコードに転用したように思える。厚みのあるシリンダーがそのまま円盤になったような・・・
コロムビア「音聴箱」 GP-17にて再生中
ダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)の分厚さが多少なりとも分かって頂けるであろうか・・・このディスク、名前の通りエジソン社の Diamond Disc Phonograph(Example:Edison C-200)でないとちゃんと再生出来ない。この再生機はダイヤモンド針を装着したDiamond Disc floating weight reproducer(※)というシロモノで、普通の蓄音機とは作りが違う。実物を見たことが無いから何とも言えませんが、軽針圧ダイヤモンド針の採用、アームよりフローティングされたピックアップ機構・・・現在の目から見ても斬新なシステムではないだろうか。
普通の鉄針を装着した蓄音機でダイヤモンド・ディスクをかけるとまともに再生出来ないどころか盤に致命的なダメージを与えてしまうのだ。
・・・そういえば、大須のハイファイ堂でなんかそれらしい再生機を見かけたから、今度行ってみようかな・・・
(※)この、Diamond Disc floating weight reproducerについてその動作がチラッと見られる動画(最後の方)がありました。
・The Edison Diamond Disc - Preservation Guidelines
In October 1912 the Edison Diamond Disc Record was introduced. Edison Laboratories had been experimenting with disc records for some 3 years, as the general public seemed to prefer them to cylinders. The thick Edison Discs recorded the sound vertically in the groove rather than the typical laterally cut groove (the only other vertical cut records being the French Pathé's discs), and could only be played to their full advantage on Edison Diamond Disc Phonographs. This combination produced audio fidelity superior to any other home record playing system of the time. However, Edison Discs and phonographs were more expensive than the competitors. This together with the incompatibility of the Edison system with other discs and machines had an adverse effect on Edison's market share. Nonetheless, Edison Discs for a time became the third best selling brand in the United States, behind Victor and Columbia Records.(wikipedia Edison Recordsより引用)
Victor's system could not play Edison Discs as the needles used would cut through the recorded sound, and the Edison system could not play Victor or other lateral discs unless one used special equipment, like the Kent adapter. There is an example of a device to play Edison discs on a Victor machine. The Brunswick Ultona and the Sonora Phonograph were the only machines besides the Diamond Disc player that could play Diamond Discs, but Edison made an attempt at curbing this (a phonograph/gramophone that could play Edison, Victor/lateral 78s, and Pathé discs) by stating "This Re-Creation should not be played on any instrument except the Edison Diamond Disc Phonograph and with the Edison Diamond Disc Reproducer, and we decline responsibility for any damage that may occur to it if this warning is ignored."(wikipedia Edison Disc Recordsより引用)
結局、音質は勝っていたが高価格で当時首位メーカーの Victor と Columbia Records の横振動ディスク・蓄音機(再生機)と互換性が無い・・・つまり、ダイヤモンド・ディスクは他社の蓄音機で再生出来ないし、他社のディスクはエジソン社の Diamond Disc Phonographで再生出来ないという「非互換性」が、エジソン社のレコード事業にマイナスに働いたということですな。結局、エジソン社は1929年のストック・マーケット崩壊が引き金の大恐慌の前日にレコード事業からの撤退を決断してしまいますが・・・
<ディスクの回転数について>
ダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)の回転数は80rpmだそうな。他の横振動ディスク(78rpm)とは微妙に異なる・・・ちなみに、横振動ディスクの回転数が78rpmで普及した理由は下記の通り。
By 1925, the speed of the record was becoming standardized at a nominal value of 78 rpm. However, the standard was to differ between countries with their alternating current electricity supply running at 60 cycles per second (now Hertz) and the rest of the world. The actual 78 speed within regions with 60 hertz mains was 78.26 rpm, being the speed of a 3600 rpm synchronous motor reduced by 46:1 gearing. Throughout other countries, 77.92 rpm was adopted being the speed of a 3000 rpm synchronous motor powered by a 50 Hz supply and reduced by 77:2 gearing.(wikipedia Gramophone Record より引用)
同期モーターと電源周波数によって決まるモーターの回転数については下記の通り。
The "synchronous speed"(ns) of a synchronous motor is the rate of rotation in RPM of the stator magnetic field. After startup it is also the rotation rate of the motor:
ns = 120×f/p
where f is the frequency of the AC synchronous motor in Hz and p is the number of magnetic poles per phase. For example, small 3-phase synchronous motor usually have 6 poles organized as 3 opposing pairs at angles of 120°, each pair powered by one phase, so p = 2 per phase. Thus for 60 Hz supply current the synchronous speed is 3600 RPM. (N.B. 'p' can also refer to pole pairs, in which case the equation becomes: Speed of rotation = 60 x f / p). (wikipedia Synchronous_motorより引用)
供給電源周波数60Hzと三相2極の同期モーターによって生み出される回転数が3600RPMで、それをギア比46:1で落とすと78.26RPM、供給電源周波数50Hzと三相2極の同期モーターによって生み出される回転数が3000RPMで、それをギア比77:2で落とすと77.92RPMになる。どちらの周波数でも実現しやすい回転数が78回転だったということで、ちゃんと産業面でデファクトになった理由があるんですな(当たり前ですが・・・)
対して、仏パテ(Pathé)のディスクは90RPMでダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)の回転数は80RPM・・・勿論、理由があってそうなったのでしょうが、今となってはそう決まった理由は良くわかりません。どなたかご存じの方いらっしゃいますか?
<1928年、 エジソン社は縦振動78回転盤に手を出すも・・・ >
結局、エジソン社独自の縦振動ダイヤモンド・ディスクでは勝負にならんと思ったのか、1928年に縦振動78回転盤の製作を開始します。"Needle Type Electric" と銘打ったこのディスク、他社の蓄音機でも再生可能でしょうが、エジソン社はこの名前の再生機を生産しているようです。
In 1928 the Edison company began plans for making "needle cut" records; by which they meant standard lateral cut discs like the "78s" marketed by almost every other company of the time. The Edison "Needle Cut" records debuted the following year. The audio fidelity was often comparable to the best of other record companies of the time, but they sold poorly as Edison's market share had declined to the point where it was no longer one of the leading companies and Edison had few distributors compared to leaders like Victor, Columbia, and Brunswick.(wikipedia Edison Recordsより引用)
もう、時既に遅しという感じですな・・エジソン社のA&Rも当を得ていなかったようで・・・
Another reason why Edison "Needle Cut" records didn't sell well is because Edison didn't sign any new talent; they continued to use the same orchestras and vocalists that they had employed all along. Edison recorded very little jazz or blues, and it was likely that people spending 75 cents for a record in 1929 were buying Columbia, Brunswick and Victor records instead. (In retrospect, the music being recorded at Edison towards the later twenties were the most conservatively arranged and 'un-hip', even when they recorded a popular tune of the day. Many collectors nowadays refer to most of Edison's recordings as being 'stodgy', although the lateral "Needle Cut" records continue to be collectable.)(wikipedia Edison Recordsより引用)
結局、この縦振動78回転盤"Needle Type Electric" は1200枚以上に相当する吹き込みが行われ、そのテスト・プレス盤(1吹き込みにつき数枚)が製作されたにもかかわらず、市場に出たのはほんの僅かで、エジソン社は1929年にレコード工場を閉鎖し、従業員はラジオ製作工場等へ異動、遺されたカタログは Henry Ford が買い取りその一部は Henry Ford Museum の所蔵となった後、New Jersey にある Edison Historic Site(wikipedia)(National Park Service) に移管されたようです。
これらのテスト・プレス盤はその後、National Park Serviceによる大規模な録音修復作業が行われ、その一部は Diamond cut prduction より1990年代後半に Edison Lateral CD collection(Unreleased Edison Laterals 他)としてCD化されて聴くことが出来ます。
<Edison Lateralsに関する参考サイト>
・The E-Discographer
-Laterally Last by Ray Wile The E-Discographer #1 May, 2000
・Mainspring Press-78-rpm Records, Cylinders, and Phonographs: Resources for Collectors
-The Edison Pages“Discontinuing the Record Business”- Documenting the Final Days of Edison Record Production
-Edison Diamond Disc Manufacturing Processes (1920–29)
・Wolverine Antique Music Society
-Unreleased Edison Lateral Recordings - Compiled By Diamond Cut Productions
<ダイヤモンド・ディスク(Edison Diamond Disc)に関する参考サイト>
・The Edison Diamond Disc - Preservation Guidelines
・intertique-Antique music boxes, Edison phonographs, Victrolas for sale
-The Edison Diamond Disc Phonograph -- History, Identification, Repair
・Edison Diamond Disc.com
・Edison Phonology
-Edison C-200 Diamond Disc Phonograph
-Edison Cylinder and Disc Record Development
-Common Problems With Edison Diamond Disc Records- Photos and Text by Phil O'Keefe
・Antique Edison Victrola Columbia Graphophone Victor Phonograph Repairs
・Phono-holics Anonymous
-Diamond Disc Record Sleeves
・Richard Densmore's Edison Diamond Disc and 78rpm Record Collection
・Tim Gracyk's Phonographs, Singers, and Old Records
-Edison Diamond Discs: 1912 - 1929
・Inventing Entertainment: the Early Motion Pictures and Sound Recordings of the Edison Companies
-The History of the Edison Disc Phonograph
・History of the Edison Diamond Disc Phonograph Records : eBay Guides
・TRUESOUND TRANSFERS
<ダイヤモンド・ディスクとNeedle Type Electricの再生動画>
・1929 EDISON NEEDLE CUT Record "Sergeant Flagg And Sergeant Quirt" Billy Murray & Walter Scanlan - YouTube
・Edison Diamond Disc - YouTube
・Why I own an Edison Diamond Disc Phonograph? - YouTube
<その他、変わり種レコード動画>
・8 rpm record - YouTube
・16 tours - 16 rpm - YouTube
・Binaural Record Demonstration Livingston Tone Arm (1953) - YouTube
う~ん・・・昨日から気楽に書き始めたらこんなになってしまった・・・その2へ(たぶん)続く
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