Historic Soundstream Digital Recording on Telarc SACD - Saint-Saëns:Symphony no.3 "Organ" a la Memoire de FRANZ LISZT , 1980年 その22011年02月24日 00時00分

その1 からの続き・・・)

Telarc SACD-60634
Telarc SACD-60634 (P)(C)2004
avec "Encores a la francaise"
Charles Camille Saint-Saëns:
 Symphony No. 3 in C minor ('Organ'), Op. 78
Eugene Ormandy/The Philadelphia Orchestra, Michael Murray(org.)
 recorded at St.Francis de Sales Church, Philadelphia, February 6, 1980

Ormandy 最晩年の数少ないディジタル録音の一つ。Ormandy/PhiladelphiaRCA Red Seal の専属を離れた後、EMI/Captol-Angel, DELOS, Telarc,そして古巣のCBS Masterworks ともアルバムを作っている。このTelarcのアルバムは1979-1980シーズンを最後に音楽監督を勇退、挂冠指揮者に移行する時期の録音。

円熟の境地に達した Ormandy/Philadelphia の演奏を、当時最新の優秀録音、しかも豊かな響きを持つ教会という条件のもとで収録された非常に価値のあるもの。

それにしても、この貴重な録音が DSDフォーマットに移し替えられたのは実に幸運なことだ。録音から既に30年以上経過しており、1970年代から1980年代にかけての初期のディジタル録音の中には、

・録音テープの経年劣化
 →ディジタル・バックアップを取ってなければ一巻の終わり

・当時のディジタル・テープレコーダーが既に無いかあっても再生不能となっている
 →廃棄処分されていたり、あったとしても補修部品が既に無くなっていたり、整備出来る技術者も既におらずメンテナンス不可・・・

といった理由により既に再生不可能となっている音源も出てきている。(このことは以前「音楽と映像メディアの行方」ということで書きましたな。)

Ormandy/Philadelphia の初期のディジタル録音も既に再生不能のものがあり、同時に回していたアナログ・テープからCD化されたものもある。(ブラームスのハンガリー舞曲等)

このサン=サーンスオルガン交響曲以外にも、Soundstream社によるPCM 50kHz,16Bits 録音がある。 RCA Red Seal とのバルトークの「オケコン」、DELOS とのチャイコ5番6番がそうである。これらの録音も再生可能な内にちゃんとバックアップを取ると同時に、 DSDフォーマットに移し替えて再発売して欲しいものであるが・・・大丈夫かな?

さて、三管編成のオーケストラにパイプ・オルガンを加えたこの曲は、Stereo 時代より High-Fidelity 追求・Audiofile(Audiofan)向けの格好の素材の一つとして扱われた感はあるが、それはともかく魅力的な曲であり、しなやかな優美さと壮麗な豪壮さが同居する傑作。

"Philadelphia sound" がどんなものかということを想像する手掛かりとしては非常に貴重な記録だろう。シンプルなマイク構成によるオフマイク録音、耳障りな音は殆ど皆無。オルガンの音もまあまあの出来。(ヨーロッパのような美しいオルガンの音にはちょっと及ばないのは残念だが、流石にパワフル)低弦の音がちょっと隠れる傾向にあるのは残念だが、しなやかな弦と輝かしいブラス、そして曇りがなく力感のあるパーカッションが素晴らしい。1楽章の静かな部分はPhiladelphia  の音質の良さが楽しめるし、2楽章はその冒頭のティンパニのメロディックで力強い音からして他の演奏とは大きな差がある。

  Ormandy の指揮も特筆に値する。RCA録音の演奏と比較しても、力みが無く円熟と溌剌さが融合したような希有な演奏だと思う。2楽章のクライマックス(仏 Durand社のスコア 167ページの FF Stringendo、CDだとTrack2 14:00-)に颯爽と入って行く部分(ティンパニが雷鳴のように轟くあたりも注目)や、スコアにないトランペットの音を効果的に重ね合わせているところ (仏Durand社のスコア 170ページの Stringendo、CDだと Track2 14:20-)などは特筆に値すると思う。2楽章の最初にオルガンが壮麗に鳴り終わってから分散和音を奏でるピアノがこれほど美しく聞こえる録音も珍し い。(仏Durand社のスコア 126ページの FF Stringendo、CDだとTrack2 8:18)最後の地響きを伴うような大音響は他の録音では聴けない。とにかく、この壮麗な音響美は全編聴き所と言っても良い。

Telarc 10051 jacket 1
Originally released LP as Telarc 10051(Double Jacket) ((P)(C)1980)
長岡鉄男 外盤A級セレクション No.190)
first CD released as CD-80051 (P)(C)1980

Telarc 10051 jacket 2
Telarc 10051(Double Jacket)

  Telarc が録音場所として選定したのは、 Academy of Music, Scottisch Rite Cathedral(Town Hall) や Old Met ではなく、93の音栓と4段の鍵盤を持つ Haskell 社製オルガンが設置されている聖フランシス教会。恐らく「大きなパイプオルガンを備えた音響が美しい教会」という条件に合致した場所だったと思われる。そ の甲斐あってか、音響は実に美しく不快なフラッターエコー等も殆ど感じられない。(残響の多いホールの録音で時折聴くことがある)

Telarc 10051 jacket 3
Telarc 10051(Double Jacket)

 Telarc の初期のLPはセッション時の写真(今となってはマエストロとオーケストラの貴重な記録)や録音会場風景、当時の最新技術であるディジタル録音やレコー ド・カッティング等(使用したカッター針等)詳細な情報が記載されており、見ごたえがある。

Telarc DG-10051 jacket liner notes
2nd released LP as DG-10051(Single Jacket) ((P)(C)1980)

第2版のLPはこれらの情報がごっそり削除されたシングルジャ ケット仕様になってしまっている。CD,SACDも残念ながら同様である。今後、音楽配信が主流になるこの時代、パッケージソフトはこういう情報をこそ積 極的に収録して付加価値を付けなければ売れないと思うが・・・なあ。

Telarc 10051 Label
Telarc 10051 Label

 初期のLPは1面の弦が何故か荒れて聴こえる。2面は問題無し。第2版のLPは両面とも音に問題は無い。

日本フォノグラム(株) 「テラーク2000」限定盤LP 20PC-2008
日本フォノグラム(株) 「テラーク2000」限定盤LP 20PC-2008

2000円の限定盤で出ていた国内盤もいい音がしており、オリジナル盤と遜色のない音を聴かせてくれる。プレスは国内盤の方が質が良い。

日本フォノグラム(株) 「テラーク2000」限定盤LP 20PC-2008 Label
20PC-2008 Label

 この録音は個人的にも思い入れが深い。長岡鉄男氏が「外盤A級セレクション(2)」(共同通信社(1)~(3)迄刊行)で優秀録音として紹介しており、実は私が初めて購入した Ormandy/PhiladelphiaCDでもある。1988年2月頃の事だったかな・・・

まだこの頃はLP も売られており、CDはまだまだ高価でPolyGram の輸入盤(「CDは西独逸ハノーヴァー製」と書かれていたことを記憶している)に日本語解説を付したものが4,200~4,500円で売られていた。手持ちの盤は日本語解説が付いた日本フォノグラム社による国内仕様のもので価格は3,200円であった。まだこの頃は、 Ormandy/Philadelphia の素晴らしさに気がついておらず、このCDを購入したのは長岡鉄男氏が推薦していたからなのだが・・・

それにしても、自分がリアルタイムで成長からその終焉までを見届ける(というのは大げさか)というのはなんとも哀しい気分にさせるものですなあ・・・

それでは。(了)