Historic Soundstream Digital Recording on Telarc SACD - Saint-Saëns:Symphony no.3 "Organ" a la Memoire de FRANZ LISZT , 1980年 その1 ― 2011年02月23日 07時45分
Wikipedia によると・・・
・2005年12月9日 コンコード・ミュージック・グループがテラークとヘッズ・アップを獲得。
・2009年2月にテラークの縮小によるリストラを行う。テラークは自社録音を停止、数々の賞を勝ち取ったプロダクション・チーム(現在は独立して Five/Four Productions, Ltd.)もカットされた・・・
とある。また、エリック・カンゼルの死去に伴いカンゼル&シンシナティ・ポップスとテラークの30年近くに及ぶ協力体制にも終止符が打たれることとなった・・・カンゼル&シンシナティ・ポップスのTelarc盤は結構聴いたモンだけどなあ・・・これも時の流れかぁ・・・
Telarc といえば、Soundstream社による Digital Recording がウリ・・・の時代があった。

1970年代後半から1980年代前半にかけて、ビデオテープレコーダーとPCMプロセッサーを組み合わせたPCM録音装置は、サンプリング周波数 44.056kHz(これはNTSC の規格から決まったそうな・・・ Sony PCM-F1 もそうですな)、CDも 業務用のディジタル・レコーダー が ビデオテープレコーダー を使用している経緯を踏まえ、 サンプリング周波数を 44.1kHz に定めている。
Soundstream社のディジタル・レコーダー は サンプリング周波数 50kHz(量子化はCDと同じく16bits)なので、CDのサンプリング周波数 44.1kHz よりも高域が伸びている・・・まあ、25kHz に対して 22.05kHz の違いだし、ナイキスト周波数 以上の高域による折り返し雑音防止用に高次数の急峻な アナログ・ローパスフィルタ をかましているから、カタログスペックほどの違いがあるかどうか・・・実際の所はどうなのだろう・・・ただ、高域により余裕があることは間違いない。
当時、Soundstream社によるディジタル録音のLPには、下記のスペックが高らかに記載されていた。

Frequency Response:Flat from 0 to 21kHz(-3dB at 22kHz)
Wow and Flutter:Unmeasurable
Total Harmonic Distortion:Less than 0.004% at 0VU
Signal-to-Noise Ratio:Better than 90dB RMS, Unweighted
Dynamic Range:Better than 90dB RMS, Unweighted
Crosstalk:Less than -85dB
Print-through:None
Sampling Rate:50,000 samples per second
Digital Format:16 bits linear encoding / decoding
まあ、つまりは、アナログのテープレコーダーでは実現不可能な性能を実現してますよ・・・と、ブレーク・スルーを高らかに宣言?してたわけだ。
ちなみに、Soundstream社のプロトタイプ録音機の規格はサンプリング周波数 37kHz, 量子化16bits。1977年 に Virgil Fox 最後の録音となったアルバムに使用されたSoundstream社の録音機は 37.5kHz,16bitsというもの。この演奏は Crystal Clear社の ダイレクトカッティングディスク CCS-7001(長岡鉄男 外盤A級セレクション No.125) でも発売されている。
カッティングと同時にディジタル・レコーダーを回していたのか、それとも全くの別テイクかどうかは不明だが、このディジタル録音のLP(Ultragroove UG-9003)には「演奏と周波数バランスは別物」(録音日時は全く同じ)と記載されているから、もしかしたらCrystal Clear社の ダイレクトカッティングディスク とは別テイクの演奏かもしれない。ちなみにこのディジタル録音 は1994年に 日本コロムビアからCD発売されている。(日本コロムビア/Prominent1000Series/LaserLight COCO-78390)
ところで、CDの規格(サンプリング周波数44.1kHz、量子化16bit)も1980年当時はかなりのオーバースペックだったそうな・・・A/D変換器, D/A変換器の値段は、当時 16bits は10万円、 片や14bits は1万円・・・と桁が違っていたそうな。たった2bitsの違いであれば 安い 14bits で行くべきだ・・・という声も多かったらしい。実際、14bitsの量子化 でも(自分も含めて)殆どの人は不満を感じないのだから。
結果として 量子化16bits で正解だったわけだけど、CDの規格策定時は周辺デバイスも揃っておらず(半導体レーザーもまだまだ実用化以前だったそうな・・・パイオニアのレーザーディスク・プレーヤーの最初の商用機はガス・レーザーだったし)綱渡りでの商品開発だったらしい・・・
とはいえ、この規格では品質が低すぎる・・・と文句を言う人もいたそうだ。(今でもそう、だからDVDオーディオとかSACDが出たわけだが・・・)まあ、「高すぎる」「低すぎる」と相反する意見があったということは、当時の状況や将来の予測も含めて、CDの規格(サンプリング周波数44.1kHz、量子化16bits) という規格は妥当だった・・・と言えるのではないだろうか・・・
閑話休題(話を戻して・・・)
テラーク は短いダイレクト・ディスク の時代を経て、しばらくはSoundstream社によるディジタル・レコーディングを行っていたが、CD発表後は ソニーのPCMプロセッサー(PCM-1610)及び編集機(DAE-1100)を使ったCD規格のデジタル録音に切り替えている。
これはLPというアナログ・フォーマットに見切りを付けて全面的にCD に移行したことによるもの。サンプリング周波数50kHzという規格は44.1kHzの CD とは相性が宜しくない。
LP時代末期のテラーク のLPは、当初の豪華なダブルジャケットから粗末なシングルジャケット仕様に簡略化され「音質を求めるならCDをどうぞ」といった旨の記載すらある。テラーク にとっては当時CDが理想に近いフォーマットであって、既にLPは過去のモノであり、需要があるから「仕方なく」出していたのだろう。
Soundstream社のディジタル録音は50kHz,16Bits、CDの規格は44.1kHz,16Bits だから 何らかの形で サンプリング周波数変換 を行う必要がある。一旦 D/A変換 してから再度A/D変換 するか、ディジタル領域のまま演算するか・・・テラーク は Studer SFC-16 Sampling Frequency Converter を使い、アナログのステップを通過すること無く、50kHz,16Bits のデータを44.1kHz,16Bits に変換してCD化していた。
しかし、サンプリング周波数を 50kHz から 44.1kHz に落とすことによるクオリティ・ダウン、さらにディジタル領域での演算とはいえ、かなり複雑な演算処理を施す必要があり、この演算による誤差やノイズ発生の懸念もある・・・というわけで、CD にオリジナルのクオリティをそのまま移し替える・・・というわけにはいかなかったようだ・・・
が、SACD(DSD 1bit 2.8224MHz)の規格であれば、PCM 50kHz,16Bits のデータをほぼそのままのクオリティで移し替えることが出来る・・・ということで、レーベル初期(1980年前後)のSoundstream社ディジタル録音を2001年からSACDHybrid盤として復刻販売していた。
この、1970年代後半から1980年代前半にかけてのテラーク&Soundstream社によるPCM 50kHz,16Bits 録音は、無指向性(全方向性)・双方向性マイクロフォンを極力少なく使用した独自のシンプルなマイクセッティングによる高品質録音、又は1812年やウェリントンの勝利に代表される猛烈録音を謳っていた。他にも、小澤/Boston Symphony・Mazzel/Cleveland Orchestra、そして我らが Ormandy/Philadelphia に代表されるアメリカのメジャー・オーケストラと次々に録音を進行させていたディジタル録音黎明期でもあった・・・
残念ながら、2011年2月現在ではこのSACD復刻企画もストップしており、このSoundstream社初期ディジタル録音によるSACDも市場から姿を消しつつある・・・
PCM 50kHz,16Bits から DSD 1bit 2.8224MHz への変換はカスタム・ソフトウェアを載せた "DATA Conversion System 972 Sample Rate Converter" を使用している。このSACDもその1枚。

avec "Encores a la francaise"
Charles Camille Saint-Saëns:
Symphony No. 3 in C minor ('Organ'), Op. 78
Eugene Ormandy/The Philadelphia Orchestra, Michael Murray(org.)
recorded at St.Francis de Sales Church, Philadelphia, February 6, 1980
(その2 へ続く)
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