オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団の黄金期を支えたホルン奏者 その32009年02月25日 07時30分

RCA Red Seal ARL1-1150
米RCA Red Seal ARL1-1150(LP, (C)1975)
Rachmaninoff Symphony no.2
Eugene Ormandy/The Philadelphia Orchestra (recorded 1973)
also available on CD 日BMG Funhouse/RCA BVCC-38057(P)1999 coupled with Scriabin"Poem of Ecstasy (rec1971)"

オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団による、ラフマニノフの交響曲第2番(ノーカット全曲版)です。米コロムビアのステレオ録音とユニテル収録の映像ではカット版で演奏していますので、これがこのコンビ唯一のノーカット全曲版演奏となります。

オーマンディの世代の指揮者は、自身の判断で冗長と思える部分をカットするのがあたりまえだったわけですが、レコード録音についてはカット無しで演奏するのが「流行(はやり)」というかセールスポイントになるので、このRCA Red Seal に遺した録音もそれに倣った(?)ものとなりました。

もっとも、作曲者が心血込めて書き上げた作品をカットされることを快く思うはずも無く、(冗長な部分を)カットして演奏したいというオーマンディの要望に対して駄々をこねる(?)ラフマニノフの様子を、マエストは晩年ユーモラスに回想しています。

・・・彼(ラフマニノフ)と友人になってからのことだが、ある時、2番交響曲のカットについて相談したところ、「カット!カット!カット!カット! 全く、なんと恐ろしいことだ。何で皆私の作品を切り取りたがるのか!まるで『ヴェニスの商人』のシャイロックだ!」と嘆いた。
楽譜を見せたところ、1~2か所の長いカットと、約10か所の短いカットについて『1か所だけ元に戻して、後はいいだろう。』との返事だった。今でも彼が望んだように演奏しているから(彼も)満足だろう・・・

確かに冗長と思える部分もあるのですが、こんな美味しい所を・・・という部分のカットは勿体無いとも思えますな。

この全曲版で嬉しいのは、3楽章の甘美な回想シーン(CDのタイミングでは 8:00-9:30 のあたり)がカットされずに演奏されていること。ここはテンポを落として p で演奏する例が多いのですが、オーマンディはそんなことはしません。 mf の速いテンポで歌い上げてしまいます。ここのエコーのように響くジョーンズのホルンが美しい。あっという間に終わってしまうので、思わず「時よ、止まれ」と思ってしまうほど甘美な瞬間なんですな、これが。

録音はベストとはいえないし(高域が荒れ気味)、フィラデルフィアの豊な響きを十分捉えているとも言えないのですが、それでもこの演奏が一番好きなんですよ。

ターンテーブルをくるくる回るニッパー君(RCA Red Seal LP 後期の "Sided Dog" と呼ばれるレーベル)を見ながらこの3楽章を聴くのが「至福の時」なんですな・・・