1929-1933年 電気吹き込み78回転録音盤 「偶発のステレオ」 再構築の試み2015年11月12日 07時00分

ACCIDENTAL STEREO - Reconstructed Recordings, 1929-1933 - Pristine Classical PASC422
Producer and Audio Restoration Engineer: Mark Obert-Thorn
Pitch stabilization, stereo synchronization and additional audio restoration: Andrew Rose

 ストコフスキとフィラデルフィア管弦楽団による演奏(Academy of Music, Philadelphia に於ける 1929年の収録)は、サン=サーンス「動物の謝肉祭」の一部とストラヴィンスキー「春の祭典」の一部。

 クーセヴィツキーとボストン交響楽団による演奏(Symphony Hall, Boston に於ける 1930年の収録)はチャイコフスキーの「悲愴」交響曲全曲(モノラル・ステレオ混在)とラヴェル「ボレロ」(モノラル・ステレオ混在)

 エルガー自作自演(オーケストラはBBC交響楽団)の「コケイン」序曲の一部(Abbey Road Studio No. 1, London に於ける 1933年の収録)

 Accidental Stereo は「偶発のステレオ」「偶然のステレオ」が適当な訳でしょうか?

 「実験的なステレオ」録音は1931年~32年のストコフスキ&フィラデルフィア管弦楽団のベル研究所による録音(Early Hi-Fi というLpでもリリースされています)が有名ですが、これは実験とはいえ「ステレオ」収録も目的の1つとして行われたもの。

 このリリースに収録されている演奏は、”「ステレオ」収録する意図は全く無かったものの、偶然にも「ステレオ」音源として世に遺された音源”というもの。

 電気を使わない「アコースティック吹き込み」録音から「電気吹き込み」に変わった1920年代前半・・・とは言え、まだまだ磁気テープは登場しておらず、78回転録音盤(ワックス・ディスク)に音を刻み込む、収録4分間はやり直しの効かないディスク録音の時代。その場でプレイ・バックが出来るわけでも無く、収録結果はテスト・プレスが出来るまで判断出来ない・・・。複数回録音して複数テイクのディスクを作るか、同時に複数のターン・テーブルを廻して複数のディスクを作るか・・・あるいはその両方の手法が採られていたことでしょう・・・

 多くの録音は、マイクを1本のみ立てて(或いは、複数のマイクを立てて1つのラインにミックス・・・したのかなあ?)複数回の演奏及び複数のターンテーブルを廻して収録していたようですが、中には複数のマイク(メインとバックアップ用)とターンテーブル(メイン・マイク用とバックアップ・マイク用)を用意し、それぞれのマイクがキャッチした異なる音を異なるターンテーブルでカッティングした・・・つまり、誰も意図も意識もしなかった「ステレオ収録」が結果として行われてしまった・・・ということで、このような録音を Accidental Stereo と言っているようです。

 この Accidental Stereo 、あるレコード収集家がその「可能性」に気が付いたが、この2つの音源をきちんと「ステレオ再生」するためには、「ディジタル信号処理技術」という「新技術」の登場と熟成を待たねばならなかったわけですが、ようやく最近になってそれがこのような形で出来るようになった・・・というわけですな。

 The recent development of Celemony’s Capstan pitch-stabilizing program, used in conjunction with phase alignment software, finally enables these problems to be solved with a degree of accuracy hitherto unattainable.

 マイクからディスクに至るまでの伝送特性の相違(位相・周波数特性等々・・・)、ピッチの不安定さ(定速回転の精度、プレス精度、中央穴のオフ・センター、遺されたディスクの経年変化による変形や反り・・・等々、所謂 Wow & flutter というヤツですな)を修正して、2つの音源の同期をきちんと取る為、「Celemony’s Capstan pitch-stabilizing program」に「phase alignment software」を組み合わせて、これまでに無い正確さで「偶然のステレオ」を「再構築」出来た・・・とのこと。

 さらに、これらの技術により、これまで Accidental Stereo では?と思われていた音源(ディスク)の中で、実は単なる同一マイク(又はライン)音源であったと判明したものもあったそうな。その判定もこれらの新技術が可能にしたとのこと。

 しかし、遺されたディスクの確保から、1つのステレオ音源に仕上げる労力は並大抵の事では無いでしょう。78rpm Guy である Mark Obert-Thorn 氏とスタッフの労力と成果には脱帽あるのみ・・・ですな。

 確かに、周波数レンジは然程広くありませんが、擬似ステレオとは次元の違う明瞭なステレオ効果に驚きました。ステレオとモノラルが混在する「悲愴」や「ボレロ」を聴くと、その差異をハッキリ認識できます。

興味のある方は如何でしょうか・・・んでは。