ふと、擬似ステレオについて考えた・・・2010年02月13日 11時39分

擬似ステレオ・・・と言っても分かる人がどれだけいるやら・・・

俺自身、リアルタイムで体験した訳ではない。実家にあった、カラヤン指揮フィルハーモニア管弦楽団演奏のベートーヴェン5番・6番シンフォニーがそれぞれ片面にカットされたLP(東芝EMI/SERAPHIM盤)がその初体験?なのだ。

それは "STEREO" と表記されているが、ジャケット後ろの解説の下に小さく

このレコードは最新の技術によりモノーラル録音をステレオ化したものです

とあり、それが何故か印象に残っているのだが・・・後に、これは西独エレクトローラ(Electrola)社が開発した ブライトクランク(Breitklang)という擬似ステレオ化技術によるものと知る。この間取り上げた フルトウェングラーのバイロイトの第9LP もその類だし・・・

この擬似ステレオ化技術は1960年代後半頃開発・実用化され、今でも中古LPにその名残を見ることが出来る・・・どころか、EMI Classics は ブライトクランク技術によりステレオ化したモノーラル録音を堂々と銘打ってCD化すらしている。擬似ステレオは批判する人も多いが支持する人も少なからずいるということか・・・

このブライトクランクによりステレオ化されたフルトウェングラーのLPは時折中古で見かける。そのLPのジャケット表に BREITKLANG STEREO と書いてあった・・・と記憶しているが、買わなかったので手元に無いからあんまり自信がない。1枚くらい買っとけば良かったかな?ダブルジャケットの内側にはブライトクランク技術の解説があったような・・・ 。

当時はこの技術をウリにしていたものと思われるが、後年発売されたLPは 表向きは通常のステレオLPを装い、解説裏に小さくその旨記したものが多いように思える・・・ま、色々事情があったんでしょうな。

擬似ステレオについてネットで調べてみたが、英語とドイツ語の wikipedia に参考になりそうな資料があった。

Stereophonic Sound - Pseudo-stereo(wikipedia)

Duophonic(wikipedia)
Pseudostereofonie(wikipedia)

どうやら、 米Capitol Duophonic と 西独エレクトローラ(Electrola)社が開発した ブライトクランク(Breitklang)は同じもののようだ・・・それは、Pseudostereofonie(wikipedia) の Weblinks にある下記リンク(PDF)にその旨の記載があったからだが・・・

Pseudostereofonie – Problematik unterschiedlicher Bearbeitungsarten und wie das Monosignal trotzdem unversehrt erhalten bleiben kann

ドイツ語はちんぷんかんぷんだが、まあ、何となく意味は分かる。当時 米Capitol は既にEMI系だったわけだし、まあ、あり得る話ではある。

手元に ブライトクランク と銘打ったLPは無いが、カラヤン指揮フィルハーモニア管弦楽団によるベートーヴェン交響曲全集(東芝EMI/EMI Classics TOCE-11045~49)が、8番を除いて全てモノーラル録音をブライトクランクによりステレオ化した音源である。1951年~1955年の録音で、8番と9番は1955年録音である。昔聴いたLP(東芝EMI/SERAPHIM盤) が懐かしくて買ったCDである。ちなみに当のLPは行方不明なのである。探しているけど見つからない・・・外に持ち出した訳ではないのに・・・何処へ行ったのやら・・・

それはさておき、この全集のブックレットの最後の2ページ、当時の独エレクトローラ社ブライトクランクLP初出時ジャケットに記載されていた ブライトクランク技術の解説<エレクトローラ・ブライトクランクとは何か>があり、これを読んで、初めて、当時聴いたLPの擬似ステレオの正体を知ったのであった。

ブライトクランク(英語で ワイド ステレオ のことだそうな)とは、端的に言えば、「多数の人に好まれるのは、音の深さと拡がりであり、音の方向性に興味を持つ人は極めて少数派である」という独エレクトローラ社の研究結果を基に開発された方式で、同社曰く、「各社が非常に手をかけてやっているモノーラルステレオ化したものより、色々な面で我々の趣向に合うことが証明された」とのこと。

具体的に ブライトクランク技術 がモノーラル音源をどうステレオ化するかは、 Duophonic(wikipedia)  と Pseudostereofonie – Problematik unterschiedlicher Bearbeitungsarten und wie das Monosignal trotzdem unversehrt erhalten bleiben kann に簡単に記載されているのでそちらを読まれると良いだろう。

ブライトクランク技術 が目指した、「はっきりとした方向性はもたないが幅の広い音質」とは、「コンサートホールで聴く実演のイメージ」なのだろう。実際、コンサートホールではそれ程音の来る方向が明確な訳ではないから、これはなかなかの慧眼であると言える。

今はパソコンですら簡単にステレオ効果を作り出すことが出来るが、当時の技術者の苦労に思いを馳ながら、擬似ステレオを聴くのもまた良きことかな・・・